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ネット銀行の口座は、通帳もなければ、月々の郵送物も届きません。家族は、その口座の存在にまず気づけません。ここでよく言われるのが「家族にIDとパスワードを伝えておきましょう」という助言です。しかしこれは、実務としても規約としても適切ではありません。この記事では、ログインさせるのではなく、存在を知らせるという正しい方法を説明します。
この記事の結論
- 問題は残高ではなく存在に気づけないこと
- 合言葉を家族に教えるのは正解ではありません。規約でも実務でも問題があります
- 正解は銀行名を書き残すこと。それだけで家族は手続きできます
- 郵送物が1通でも届く設定にしておくと、気づかれる可能性が大きく上がります
- 使っていない口座は生前に減らすのが最も確実
この記事でわかること
- ネット銀行が終活で問題になる理由
- 家族が気づけない3つの仕組み
- 合言葉を教えてはいけない理由
- 何を書いてよく、何を書いてはいけないか
- 口座を減らす手順
- 休眠状態になるとどうなるか
- 相続手続きが対面の銀行とどう違うか
- 一人暮らしの場合の備え
ネット銀行が終活で問題になる理由
ネット銀行そのものに問題があるわけではありません。「手がかりが残らない」という一点だけが問題です。
| 対面の銀行 | ネット銀行 | |
|---|---|---|
| 通帳 | ある | ないことが多い |
| キャッシュカード | ある | あることが多い |
| 定期的な郵送物 | 届くことがある | 届かないことが多い |
| 店舗 | ある | ない |
| 家族が気づく手がかり | 通帳・郵送物 | ほぼない |
| 相続の相談 | 窓口で対面 | 電話か書面 |
最後から2行目がすべてです
家族が遺品の中から通帳を見つけて「ここに口座がある」と分かるのが、これまでの流れでした。ネット銀行には、その手がかりがありません。だから終活の対象になります。
家族が気づけない3つの仕組み
- 紙の書類が発行されない取引の記録は画面の中だけです。家を探しても何も出てきません。
- 郵送物を止めている「郵送物なし」に設定していると、年に1度も紙が届きません。
- 連絡先がメールだけ本人しか見ない場所に通知が届きます。亡くなったあとは誰も開きません。
キャッシュカードが唯一の手がかりになることがあります
財布や引き出しにカードがあれば、家族はそこから気づけます。カードを解約せずに持っている場合、それは意図せぬ「手がかり」になっています。逆にカードもない口座は、書き残さない限り、まず発見されません。
「合言葉を教えておけばよい」は間違いです
家族にIDとパスワードを渡す方法は、勧められません
終活の記事でよく見かける助言ですが、次の3つの問題があります。
- 多くのサービスで、本人以外の利用は規約で禁じられています
- 二段階認証があると、本人の端末がないとログインできません
- 亡くなったあとの入出金は、相続手続き上の問題になりえます
なぜログインさせてはいけないのか
| やろうとすること | 起きること |
|---|---|
| 家族が本人になりすましてログイン | 規約に反する可能性がある |
| 本人の携帯で認証しようとする | 携帯を解約すると使えなくなる |
| 亡くなったあとに引き出す | 相続財産を動かしたことになりうる |
| 他の相続人に知らせず動かす | あとで争いの原因になる |
| 合言葉のメモを紛失する | 第三者に使われる危険がある |
相続人が複数いる場合はとくに危険です
一人が勝手に引き出すと、他の相続人との間で深刻な争いになります。金額の大小は関係ありません。「勝手に動かした」という事実が問題になります。正規の手続きで進めるほうが、結果的に早く、安全です。
正解は「存在を知らせる」ことです
銀行名さえ分かれば、家族は手続きできます
相続の手続きでは、家族が金融機関に連絡し、必要な書類を提出して進めます。ログインする必要はありません。必要なのは「どこに口座があるか」という情報だけです。
| 書いてよいこと | 書いてはいけないこと |
|---|---|
| 金融機関の名前 | ログインのID |
| おおまかな用途(貯蓄用、支払い用など) | パスワード・合言葉 |
| キャッシュカードの保管場所 | 暗証番号 |
| 口座が「ある」という事実 | 口座番号(書かなくても照会できます) |
| 連絡先の電話番号 | 秘密の質問の答え |
| ひもづけている引き落とし | 認証用の数字 |
書き方の例
終活ノートへの書き方
【ネット銀行】
・〇〇銀行(通帳なし。貯蓄用。カードは机の右上の引き出し)
・□□銀行(通帳なし。通販の支払い用。カードなし)
※ ログインの合言葉は書きません。手続きは各銀行に連絡してください。
※ 合言葉を保管している場所:(家族に口頭で伝えてあります)
「合言葉は書きません」と明記してください
家族は「書き忘れたのでは」と探し回ります。意図的に書いていないと明記するだけで、その手間がなくなります。あわせて「手続きは銀行に連絡すればできる」と一行添えてください。
郵送物を1通は届く設定にしておく
これが最も実効性のある対策です
年に1度でも紙が届けば、家族はそれを見て口座の存在に気づけます。設定で郵送を選べる場合は、あえて紙を受け取る設定にしておいてください。書き残すことと合わせて、二重の備えになります。
- 取引報告書や残高の案内を、郵送で受け取る設定にできるか
- 登録している住所が現住所になっているか
- キャッシュカードを財布か決まった引き出しに置いているか
- 登録している電話番号が使えるものになっているか
- 登録しているメールが、家族も確認できる可能性のあるものか
口座を減らすという選択
そもそも数が少なければ、伝えるのも探すのも簡単になります。整理の基本は「減らす」です。
| 口座の状態 | どうするか |
|---|---|
| 毎月使っている | 残す |
| 年金や給与の受取 | 残す |
| 引き落としがひもづいている | 残す(または移す) |
| 数年使っていない | 解約を検討 |
| 残高がわずか | 解約を検討 |
| 作った理由を思い出せない | 解約 |
減らす手順
- 持っている口座を全部書き出す(次の章の方法で探す)
- それぞれの用途と、ひもづいている引き落としを確認する
- 残す口座を決める(多くても3つ程度が扱いやすい)
- 引き落としを、残す口座へ移す
- 移し終えたことを1〜2か月確認する
- 残高を移してから解約する
- 終活ノートを書き直す
5番目を飛ばさないでください
引き落としの変更が反映されるまでに時間がかかることがあります。先に解約すると、公共料金やカードの支払いが止まります。1〜2か月は両方を残し、確実に移ったことを確認してから解約してください。
使っていない口座の見つけ方
| 探す場所 | 見つかるもの |
|---|---|
| 財布・カードケース | キャッシュカード |
| 机や引き出し | カード、口座開設時の書類 |
| メールの受信箱 | 金融機関からの通知 |
| スマートフォンのアプリ一覧 | 入れたままのアプリ |
| クレジットカードの明細 | 引き落とし先の口座 |
| 確定申告の書類 | 利子の記録 |
| 証券口座の入出金先 | ひもづけている銀行 |
メールの検索がいちばん早い
受信箱で「銀行」「口座」「お取引」といった言葉を検索してください。忘れていた口座が出てくることが多くあります。記憶を頼りに書き出すより、確実です。
休眠状態になるとどうなるか
引き出せなくなるわけではありません
長期間にわたって入出金などの取引がない預金は、法律に基づく制度によって預金保険機構へ移される仕組みがあります。ただし移されたあとも、手続きをすれば引き出すことができます。「なくなる」わけではありません。
| 起きること | 内容 |
|---|---|
| 移管される | 一定期間取引がないと制度に基づいて移される |
| 通知が届くことがある | 条件により、事前に案内が来る場合がある |
| 引き出しは可能 | 手続きをすれば受け取れる |
| 手間が増える | 通常の解約より書類が多くなることがある |
| 家族の負担になる | 存在を知らないと、そもそも手続きに至らない |
※ 対象となる期間、通知の条件、手続きの方法は制度および金融機関によって異なります。制度の詳細はお金の終活で知っておきたい休眠預金等活用法とはを参照し、個別の取り扱いは各金融機関にご確認ください。
家族が相続手続きをする流れ
1番目で止まる例が最も多い
存在を知らなければ、家族は連絡すらできません。この記事でやるべきことは、この1行だけと言ってもよいくらいです。口座凍結の一般的な流れは家族が亡くなったら銀行口座はいつ凍結される?を参照してください。
対面の銀行と手続きがどう違うか
| 対面の銀行 | ネット銀行 | |
|---|---|---|
| 最初の連絡 | 窓口へ行ける | 電話かウェブ |
| 相談 | 対面で聞ける | 書面と電話でのやり取り |
| 書類の受け渡し | 持参できる | 郵送が中心 |
| 不備があったとき | その場で直せる | 再度の郵送になる |
| 所要期間 | ー | やり取りの分だけ長くなりやすい |
| 高齢の家族の負担 | 比較的小さい | 手続きに慣れが要る |
高齢の配偶者だけが残る場合は要注意
郵送とウェブでのやり取りが中心になるため、手続きに慣れていない方には負担が大きくなります。子や親族が手伝える体制を、あらかじめ考えておいてください。口座を減らしておくことが、そのまま負担軽減になります。
証券口座・電子マネーがある場合
| 種類 | 気をつける点 | 参考 |
|---|---|---|
| 証券口座 | 評価や移管の手続きが必要になる | 証券口座の相続手続き |
| 電子マネー | 規約により扱いが異なる | 電子マネーの相続はどうなる? |
| 交通系のカード | 払い戻しの手続きがある | 故人のSuica・PASMOは払い戻しできる? |
| ネット上の各種残高 | 存在に気づかれにくい | デジタル終活チェックリスト |
いずれも「存在を知らせる」という対策は共通です。名前だけ一覧にしておいてください。
二段階認証の端末をどうするか
認証に携帯電話やアプリを使っている場合、その端末を解約すると本人でもログインできなくなります。
- 認証に使っている端末はどれか把握しているか
- 携帯を機種変更するとき、認証の引き継ぎ方を確認しているか
- 電話番号を変える予定はないか
- 端末を紛失したときの復旧方法を知っているか
- 家族が携帯を解約する前に、確認すべきことを書き残しているか
携帯の解約は急がないでください
家族が亡くなったあと、真っ先に携帯を解約する方がいます。しかし認証に使われている場合、各種の確認ができなくなることがあります。慌てて解約せず、契約やサービスの整理が済んでからにしてください。携帯の手続きは携帯電話の死亡時の解約手続きと「承継」を参照してください。
一人暮らしの場合の備え
| やること | 理由 |
|---|---|
| 口座を最小限に絞る | 探す人がいないため |
| 金融機関名を書いた紙を、目につく場所に置く | 金庫や奥にしまわない |
| 誰か1人に「書いてある」と伝える | 親族、友人、支援者など |
| 郵送物が届く設定にする | 物理的な手がかりを残す |
| 死後事務を頼む相手を決める | 手続きをする人が必要 |
| 年に1回、内容を見直す | 口座が増減するため |
身寄りがない場合の備え全般は身寄りなし・子なし夫婦が任意後見で備えるべき5つのこと、頼める内容は終活の代行サービスにまとめています。
生前にやっておくこと一覧
- 持っている口座を全部書き出した
- 使っていない口座を解約した
- 残す口座を3つ程度に絞った
- 引き落としを整理した
- 郵送物が1通は届く設定にした
- 金融機関名を終活ノートに書いた
- 合言葉は書かず、保管場所だけ伝えた
- キャッシュカードの置き場所を決めた
- 登録している住所と電話番号が最新である
- 認証に使っている端末を把握している
口座を1つに絞れない場合の考え方
「減らしましょう」と言われても、事情があって減らせないこともあります。その場合は役割で分けると、家族に説明しやすくなります。
| 役割 | 口座 | 家族への伝え方 |
|---|---|---|
| 入ってくるお金 | 年金や給与の受取 | 「収入はここ」 |
| 出ていくお金 | 公共料金・カードの引き落とし | 「支払いはここ」 |
| 置いておくお金 | 貯蓄用 | 「まとまったお金はここ」 |
3つに役割を割り振ると、説明が1行で済みます
「〇〇銀行が収入、□□銀行が支払い、△△銀行が貯蓄」。これだけで家族は全体像をつかめます。数を減らせない場合でも、役割が整理されていれば実質的に同じ効果があります。
家族の側がやること(存在に気づいたとき)
ここからは、家族の立場で読む方向けです。
- キャッシュカードや郵送物から、金融機関名を確認する
- その金融機関の「相続の手続き」の案内を探す
- 電話またはウェブの窓口へ連絡する
- 案内された書類をそろえる
- 提出し、結果を待つ
- 他にも口座がないか、明細やメールから確認する
ログインを試さないでください
合言葉が分かっても、本人以外の利用は規約で禁じられているのが一般的です。また相続人が複数いる場合、一人が動かすと後で争いになります。正規の窓口へ連絡するのが、結果的にいちばん早い方法です。
見つからない口座を探す方法
故人宛の郵便物、確定申告の控え、クレジットカードの明細に記載された引き落とし先。この3つから、思わぬ口座が見つかることがあります。郵便物は半年ほど様子を見ると、年に1度だけ届く案内を拾えることがあります。
よくある質問
- 家族にIDとパスワードを教えておけばよいのでは。
- 勧められません。多くのサービスで本人以外の利用は規約で禁じられており、二段階認証があるとそもそもログインできません。亡くなったあとに引き出すと、相続の手続き上も問題になりえます。
- では、家族はどうやって手続きするのですか。
- 金融機関に連絡し、必要な書類を提出して進めます。ログインは不要です。必要なのは「どこに口座があるか」という情報だけです。
- 口座番号も書いておくべきですか。
- 書かなくても照会できます。金融機関名だけで十分です。書く情報が少ないほど、紛失したときの危険も小さくなります。
- 合言葉はどこに保管すればよいですか。
- 終活ノートとは別の場所に保管し、ノートには「保管場所」だけを書くか、家族に口頭で伝えてください。ノートに直接書かないでください。
- 使っていない口座は解約したほうがよいですか。
- 解約してください。数が少ないほど、伝えるのも家族が手続きするのも簡単になります。ただし引き落としを先に移し、1〜2か月確認してから解約してください。
- 長く使っていない口座のお金はなくなりますか。
- なくなりません。一定期間取引がないと制度に基づいて移される仕組みがありますが、手続きをすれば引き出せます。ただし手間は増えます。
- 郵送物は届かない設定のほうが安全ではないですか。
- 防犯上はそう思えますが、終活の観点では逆です。年に1度でも紙が届けば、家族が存在に気づけます。書き残すことと合わせて、二重の備えになります。
- キャッシュカードは持っていたほうがよいですか。
- 持っていたほうが、家族が気づく手がかりになります。ただし置き場所を決め、暗証番号は書かないでください。
- 家族が携帯をすぐ解約してしまいました。
- 認証に使っていた場合、確認が難しくなることがあります。ただし相続手続き自体は金融機関への連絡と書類の提出で進められます。まず各金融機関に相談してください。
- 相続の手続きは対面の銀行と違いますか。
- 店舗がないため、電話や郵送でのやり取りが中心になります。不備があると再度の郵送になるため、時間がかかりやすい点に注意してください。
- 高齢の配偶者だけが残る場合が心配です。
- 口座を減らしておくことが最も効果的です。あわせて、子や親族が手伝える体制を考えておいてください。
- まず何をすればよいですか。
- メールの受信箱で「銀行」「口座」と検索して、持っている口座を全部書き出してください。忘れていたものが出てくることが多くあります。
まとめ
ネット銀行の終活で問題になるのは、残高の額ではありません。家族が存在に気づけないこと、この一点です。
そして、よく言われる「合言葉を家族に教えておく」は正解ではありません。規約に反する可能性があり、二段階認証があればそもそもログインできず、亡くなったあとの入出金は相続の手続き上も問題になりえます。
正解は単純です。金融機関の名前を書き残すこと。それだけで、家族は正規の手続きで進められます。あわせて郵送物が1通は届く設定にしておけば、書き残しを見落とされても気づいてもらえます。
そして最も確実なのは、口座そのものを減らしておくことです。3つ程度に絞れば、伝えるのも、家族が手続きするのも簡単になります。まずはメールの受信箱を検索して、いくつ持っているか数えるところから始めてください。
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