相続トラブル事例7選と防ぎ方|揉める家に共通する3つの条件

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「うちは兄弟仲がいいから大丈夫」——相続の現場で、この言葉ほど当てにならないものはありません。

相続で揉めるのは、仲が悪い家ではありません。分けにくい財産があり、事前に何も決まっていない家です。そして日本の家庭の多くが、この条件に当てはまります。

この記事では、実際によく起きる7つのトラブル事例と、そこから逆算した予防策をまとめます。

この記事でわかること

  • 相続トラブルの7事例と、それぞれの防ぎ方
  • 「揉める家」に共通する3つの条件
  • 遺産分割調停の流れと、かかる期間・費用
  • 弁護士に頼む場合の費用の目安
  • 生前にできる予防策5つ(費用が安い順)

目次

  1. 揉める家に共通する3つの条件
  2. 事例① 自宅しかない
  3. 事例② 介護した人と、しなかった人
  4. 事例③ 生前にもらった人がいる
  5. 事例④ 前婚の子・認知した子がいる
  6. 事例⑤ 同居していた人の使い込み疑惑
  7. 事例⑥ 子がいない夫婦
  8. 事例⑦ 相続人が行方不明・音信不通
  9. 生前にできる予防策5つ
  10. 揉めてしまったときの進み方
  11. 遺産分割調停の流れ
  12. 弁護士費用の目安
  13. やってはいけない5つのこと
  14. よくある質問
  15. まとめ

揉める家に共通する3つの条件

相続トラブルは、財産の多い家だけの問題ではありません。むしろ家庭裁判所で扱われる遺産分割事件の多くは、遺産額5,000万円以下だとされています。

この3つが揃うと危険です

  1. 分けにくい財産がある/不動産が財産の大半。これが最大の要因です
  2. 事前に何も決まっていない/遺言書がなく、本人の意向も誰も知らない
  3. 相続人の間に「不公平感」がある/介護、生前の援助、同居。金額ではなく感情の問題

逆に言えば、この3つのうち1つでも解消すれば、揉める確率は大きく下がります。最も手軽なのは②——遺言書を1通書くことです。

事例① 自宅しかない

状況/父が亡くなり、相続人は長男・次男の2人。財産は父が住んでいた自宅(評価額2,400万円)と預貯金200万円。長男は父と同居しており、そのまま住み続けたい。次男は「法定相続分の1,300万円をよこせ」と主張。

問題/自宅を売らなければ次男に払う現金がない。長男は住む場所を失う。

なぜ起きるか

不動産は切って分けられません。「半分ずつ」が物理的に不可能なため、次の3択を迫られます。

選択肢内容問題点
代償分割長男が家を取得し、次男に現金を払う払う現金がない
換価分割売って現金を分ける長男が住む場所を失う
共有分割2人の共有名義にする問題を先送りするだけ

「とりあえず共有」が最悪の選択です

共有にすると、売却も大規模修繕も共有者全員の同意が必要になります。そして共有者が亡くなればその持分がさらに相続され、数十年後には会ったこともない親戚10人以上と交渉することになります。

その代で決着させてください。

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防ぎ方

  • 生命保険で代償金を用意しておくこれが最も実務的です。死亡保険金は受取人固有の財産なので遺産分割の対象外。長男を受取人にしておけば、そのお金で次男に代償金を払えます
  • 遺言書で「長男に自宅、次男に預金と保険金」と明確にする
  • 付言事項で理由を書く/「長男には同居して世話をしてもらった」など

遺言書の書き方は遺言書の書き方と形式要件、保険の使い方は終活で考える保険の選び方をご覧ください。

事例② 介護した人と、しなかった人

状況/10年間、長女が母を自宅で介護。他の兄弟は遠方でほとんど関わらなかった。母の死後、長女が「私は10年介護した。多くもらう権利がある」と主張。兄弟は「法定相続分どおりで」と譲らない。

法律上どうなるか

寄与分という制度はありますが、認められるハードルは高いのが実情です。

要件説明
特別の寄与であること親族として通常期待される程度を超える必要があります。「たまに様子を見に行った」では認められません
無償またはそれに近いこと相応の対価を受け取っていた場合は認められにくい
継続性・専従性長期間、片手間でなく行っていたこと
財産の維持・増加への貢献「介護費用の支出を免れさせた」という形で評価されます

記録がなければ主張できません

寄与分を主張するには、何をどれだけやったかの証拠が必要です。

  • 介護日誌(日付・内容・所要時間)
  • おむつ代・医療費などの領収書
  • 仕事を減らした・辞めた記録
  • 要介護認定の記録、ケアプラン

介護をしている最中に記録をつけておく——これが唯一の対策です。あとから思い出して主張しても通りません。

相続人でない人が介護した場合(特別寄与料)

2019年から、相続人以外の親族(長男の妻など)が無償で介護をした場合に、相続人へ金銭を請求できる特別寄与料の制度ができました。

ただし請求期限が短く、相続開始と相続人を知った時から6か月以内、または相続開始から1年以内です。該当する場合は早めに専門家へ相談してください。

最も確実な防ぎ方

本人が生前に遺言書を書き、付言事項で理由を述べておくこと。「長女には10年間介護してもらった。その労に報いるため多く相続させる」——この一文があるだけで、他の兄弟の受け止め方が変わります。

事例③ 生前にもらった人がいる

状況/長男は住宅購入時に父から1,000万円の援助を受けていた。次男は何ももらっていない。父の死後、遺産2,000万円を「半分ずつ」と長男が主張。次男は「兄は先に1,000万もらっている」と反発。

特別受益という考え方

生前に特別な援助を受けていた場合、その分を相続財産に持ち戻して計算することができます。

この例で持ち戻すと

  • みなし相続財産:2,000万 + 1,000万 = 3,000万円
  • 各自の取り分:3,000万 × 1/2 = 1,500万円
  • 長男:1,500万 − 既にもらった1,000万 = 500万円
  • 次男:1,500万円

特別受益にあたるもの・あたらないもの

あたる可能性が高いあたらないことが多い
住宅購入資金の援助通常の生活費・小遣い
事業の開業資金一般的な結婚式の費用
多額の結婚持参金・支度金お年玉・お祝い程度の金銭
特定の子だけの高額な学費(留学費用など)兄弟が等しく受けた教育費
不動産の無償譲渡

相続開始から10年で主張できなくなります

2023年4月施行の民法改正により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなりました(例外はあります)。

「そのうち話し合おう」と放置すると、主張する権利そのものを失います。

防ぎ方

本人が遺言書で「持ち戻しを免除する」と書いておくか、逆に「長男への1,000万円は特別受益として扱う」と明記しておく。どちらでも構いませんが、本人が決めておけば争いになりません。

事例④ 前婚の子・認知した子がいる

状況/父の死後、戸籍を集めたところ、前妻との間に子がいることが判明。現在の家族は誰も知らなかった。この子も相続人であり、連絡を取って遺産分割協議に加わってもらわなければ、預金の解約も家の名義変更もできない。

相続人を1人でも欠いた遺産分割協議は無効です

「知らなかった」「会ったこともない」は理由になりません。前婚の子も、認知した子も、現在の子とまったく同じ相続分を持ちます。

手紙で連絡を取り、事情を説明して協力を求めることになります。いきなり書類だけ送りつけると、感情的にこじれます。弁護士を通じて連絡するほうが円滑なことも多いです。

防ぎ方

本人が生前に家族へ伝えておくこと。これに尽きます。伝えづらい事情であればこそ、遺言書に書いて、前婚の子への配分も明記しておく。死後に突然発覚するのが、最も家族を傷つけます。

事例⑤ 同居していた人の使い込み疑惑

状況/母と同居していた長女が、母の通帳を管理していた。母の死後、預金残高が想定より少ないことが判明。他の兄弟が「使い込んだのでは」と疑い、関係が決裂。

実際には「使い込み」でないことも多い

介護費用、おむつ代、通院のタクシー代、施設の一時金——本人のために使った正当な支出であることが大半です。しかし記録がないと、証明できません。

防ぎ方(管理する側)

  • 専用のノートに、日付・金額・使途を書く/簡単なメモで十分です
  • 領収書を封筒に入れて保管する/月ごとに分けておくと後で説明しやすい
  • 親の口座から自分の口座へ移さない/疑われる最大の原因です
  • 年に1回、兄弟に収支を報告する/これが最も効きます。後出しにしないこと

記録は、疑われた側を守る道具でもあります

疑う側は、金融機関に取引履歴の開示を求めることができます(相続人であれば単独で請求可能)。過去数年〜10年分の入出金が明らかになるので、隠すことはできません。

逆に言えば、正当に使っていたなら記録さえあれば証明できます。管理を引き受けるなら、最初からノートをつけてください。

事例⑥ 子がいない夫婦

状況/夫が亡くなり、妻は「当然、私が全部相続する」と思っていた。しかし相続人は妻と、夫の兄弟姉妹3人。自宅の名義変更をするには、疎遠な義理の兄弟3人全員から署名と実印をもらう必要があった。

子がいない夫婦は、必ず遺言書を書いてください

子も親もいない場合、相続人は配偶者と故人の兄弟姉妹です。法定相続分は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4。

ただし——兄弟姉妹には遺留分がありません。つまり「全財産を妻に相続させる」という遺言書を1通書いておけば、そのとおりになります。

遺言書の効果が最も大きく出るのが、このケースです。費用は自筆なら0円、法務局に預けても3,900円。この金額で問題が完全に解決します。

事例⑦ 相続人が行方不明・音信不通

状況対応
住所が分からない戸籍の附票を取れば現住所が分かります
住所は分かるが連絡に応じない手紙を送り続ける。応じなければ遺産分割調停を申し立てる
本当に行方不明家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる
7年以上生死不明失踪宣告を申し立てる
相続人が認知症成年後見人の選任が必要
相続人が未成年特別代理人の選任が必要(親も相続人なら利益相反になるため)

いずれも家庭裁判所への申立てが必要で、時間も費用もかかります。遺言書があれば、この多くを回避できます。

生前にできる予防策5つ

費用が安い順に並べます。上の2つだけでも、揉める確率は大きく下がります。

  1. 財産目録を作る(0円)何がどこにあるか分かるだけで、疑心暗鬼が消えます。すべての出発点です。→ 財産目録の書き方
  2. 遺言書を書く(0円〜3,900円)最も効果が高く、最も安い対策。自筆なら0円、法務局保管でも3,900円です。付言事項で「なぜこう分けたか」を書くのが要点。→ 遺言書の書き方
  3. 生前に家族と話しておく(0円)「私が死んだらこうしてほしい」と口に出しておく。文書より強い場合もあります。とくに前婚の子など、伝えづらいことこそ生前に。
  4. 生命保険で代償金を用意する(保険料)自宅が主な財産の場合、これが決定打になります。死亡保険金は遺産分割の対象外で、受取人が確実に受け取れます。
  5. 公正証書遺言にする(数万円〜)無効になるリスクをほぼゼロにできます。財産が多い、相続人が揉めそうな場合はこちら。

付言事項が、実務では最も効きます

付言事項に法的な効力はありません。しかし「なぜこう分けたのか」を本人の言葉で書いておくと、感情的な対立が和らぐ——これは相続の現場でよく言われることです。

争いの多くは金額ではなく「納得できない」という感情から始まります。理由が書かれていれば、納得の余地が生まれます。

揉めてしまったときの進み方

段階1当事者間の話し合い費用0円。ここでまとまるのが最善です。感情的になったら一度時間を置くことも有効です。
段階2弁護士に相談・代理交渉相談料は30分5,000円程度が目安(無料相談もあります)。第三者が入るだけで冷静になることも多いです。
段階3遺産分割調停家庭裁判所で、調停委員を交えて話し合います。申立費用は収入印紙1,200円+郵便切手。裁判ではなく話し合いの延長です。
段階4遺産分割審判調停が不成立の場合、裁判官が判断を下します。誰も望まない結論になることもあります。

遺産分割調停の流れ

項目内容
申立先相手方の1人の住所地を管轄する家庭裁判所(または当事者が合意で定めた家裁)
申立費用収入印紙1,200円+連絡用の郵便切手
必要書類申立書、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、遺産の資料(不動産登記事項証明書、残高証明書など)
期日の間隔1〜2か月に1回程度
解決までの期間半年〜2年程度かかることが多い
当事者の顔合わせ調停委員が交互に話を聞くため、相手と直接顔を合わせないよう配慮されるのが通常
弁護士必須ではありません。本人だけでも申し立てられます

調停は「裁判」ではありません

「裁判所」と聞くと身構えますが、調停は第三者を交えた話し合いです。調停委員(多くは弁護士や有識者)が双方の言い分を聞き、合意点を探ります。

遺産分割事件の多くは、調停の段階で解決しています。審判まで進むケースは限られます。

弁護士費用の目安

項目費用の目安備考
法律相談30分5,000円程度初回無料の事務所も多い
着手金20〜50万円程度結果にかかわらず発生
報酬金得られた経済的利益の
数%〜十数%
金額により料率が変わるのが一般的
実費数万円〜戸籍取得費、郵便代、交通費など
日当1回3〜5万円程度遠方の裁判所へ出廷する場合

※ 編集部が一般的な情報をもとにまとめた目安です。弁護士費用は自由化されており、事務所によって大きく異なります。必ず契約前に見積もりと委任契約書をご確認ください。

費用倒れに注意してください

取り分が200万円増えても、弁護士費用が150万円かかれば手元に残るのは50万円です。「勝つこと」より「いくら残るか」で判断してください。

相談の段階で「この件を依頼した場合、総額いくらかかり、どれくらいの結果が見込めますか」と率直に聞いてください。誠実な弁護士なら、費用倒れになる案件は受任前に説明します。

無料で相談できる窓口

  • 法テラス/収入等の条件を満たせば無料法律相談。費用の立替制度もあります
  • 各地の弁護士会/相続に特化した相談会を開催しています
  • 市区町村の無料法律相談/広報紙や公式サイトで日程を確認できます

やってはいけない5つのこと

  1. 勝手に遺品や財産を処分する形見分けのつもりでも「財産を隠した」と受け取られます。相続放棄ができなくなるおそれもあります。
  2. 故人の口座から勝手に引き出す葬儀費用のためでも、領収書を残さないと疑われます。必要なら預貯金の仮払い制度を使ってください。
  3. 封をされた遺言書を開ける検認前の開封は5万円以下の過料の対象。改ざんも疑われます。
  4. 感情的なメールやLINEを送る調停で証拠として出されます。書いたものは残ります。
  5. 「そのうち話そう」と放置する相続開始から10年で特別受益・寄与分が主張できなくなり、相続登記は3年で過料の対象。放置は不利になるだけです。

よくある質問

財産が少なければ揉めませんか?
逆です。遺産分割事件の多くは遺産額5,000万円以下とされています。財産が多い家は税理士や銀行が早期に関わり、専門家を交えた話し合いになりやすい一方、財産が「自宅だけ」という家は分けようがなく、当事者だけで揉めることになります。
遺言書があれば絶対に揉めませんか?
大幅に減りますが、絶対ではありません。遺留分を侵害していれば請求される可能性がありますし、遺言書の有効性そのものを争われることもあります(作成時に認知症だった等)。元気なうちに、公正証書で作るのが最も安全です。
親に遺言書を書いてほしいのですが、切り出せません
「遺言書を書いて」と直接言うと角が立ちます。「相続登記が義務化されたらしい」「うちは自宅しかないから、どうしたらいいか一緒に考えたい」など、制度や不安を入口にすると話しやすくなります。自分が先にエンディングノートを書いて見せる、という方法もあります。
兄弟が話し合いに応じません
期限を切って手紙を送り、応じなければ遺産分割調停を申し立ててください。調停は相手を訴えるものではなく、話し合いの場を裁判所に設けてもらう手続きです。相手が出席しなければ審判に移行するため、放置し続けることはできません。
相続放棄すれば、揉め事から抜けられますか?
抜けられます。ただしプラスの財産も一切受け取れません。また相続権が次の順位(親、兄弟姉妹)に移るため、思わぬ親族を巻き込むことになります。放棄するなら、次の順位の人に必ず伝えてください。手続きは遺産相続の流れと期限で解説しています。
調停はどれくらいの期間がかかりますか?
半年〜2年程度が目安です。期日は1〜2か月に1回のペースで開かれます。不動産の評価で対立すると、鑑定が必要になりさらに時間がかかります。

まとめ

相続トラブル・要点

  • 揉める条件は3つ。分けにくい財産/何も決まっていない/不公平感
  • 遺産分割事件の多くは5,000万円以下。財産が少ないほうが揉めやすい
  • 最大の原因は不動産。「とりあえず共有」は問題の先送り
  • 寄与分は記録がなければ主張できない。介護中にノートをつける
  • 特別受益・寄与分は相続開始から10年で主張できなくなる
  • 子がいない夫婦は遺言書1通で解決する。兄弟姉妹に遺留分はない
  • 通帳を管理するなら、収支を記録して年1回報告する
  • 最も安く最も効くのは遺言書+付言事項
  • 弁護士に頼むときは「いくら残るか」で判断する

相続トラブルの本質は、お金ではなく「納得できるかどうか」です。だからこそ、亡くなった本人が生前に理由を語っておくことが、どんな法的手続きよりも効きます。

今日できることは1つ。財産目録を1枚作ってみてください。「何があるか」が家族に見えているだけで、疑心暗鬼の芽はかなり摘めます。

※ 本記事は一般的な情報をまとめたものです。事例は理解を助けるための構成例であり、特定の事案を指すものではありません。寄与分・特別受益の判断、調停の見通し、費用の見積もりは個別性が高いため、弁護士にご相談ください。弁護士費用は自由化されており、事務所ごとに異なります。法令・制度は改正されることがあります。

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