高齢者の睡眠薬|転倒・物忘れのリスクと、自己判断でやめてはいけない理由

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「夜眠れないと言うので、かかりつけ医に頼んで睡眠薬を出してもらった」——高齢の親を持つ家庭では珍しくない話です。ところがしばらくして、別の心配が出てきます。日中にふらつく。物忘れが増えた。便秘がひどくなった。夜中にトイレが間に合わなくなった。

これらを「歳のせい」あるいは「認知症が始まったのかもしれない」と受け取る家族は少なくありません。しかし厚生労働省の指針は、まったく別の可能性を示しています。

結論|怖いのは「効かないこと」より、日中に出る症状

結論から申し上げます。高齢者の睡眠薬でまず疑うべきは、夜の効き目ではなく、日中に出ている症状のほうです。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、高齢者では薬の有害な作用が「老年症候群」と呼ばれる症状の形で表れ、薬が原因だと気づかれないまま見過ごされやすいと指摘しています。厚生労働省の指針が挙げる症状のうち、睡眠薬・抗不安薬が原因薬剤として名前を挙げられているものは、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、便秘、排尿障害・尿失禁の5つです。

「認知症が始まった」と思った症状が、薬によるものかもしれません。
物忘れ、日中のぼんやり、つじつまの合わない言動、失禁。いずれも家族が認知症を疑う代表的な変化ですが、厚生労働省の指針では、いずれも睡眠薬・抗不安薬が原因になりうる症状として挙げられています。薬を飲み始めた時期と、症状が出はじめた時期を並べてみることが、最初の手がかりになります。

ただし、ここから先に進む前に、はっきり書いておかなければならないことがあります。睡眠薬を自己判断でやめてはいけません。急にやめると離脱症状が出るためで、この点は記事の後半で詳しく扱います。この記事の目的は薬をやめさせることではなく、医師に相談すべき状態かどうかを家族が見分け、受診の場で必要なことを伝えられるようにすることにあります。

この記事でわかること

  • 睡眠薬・抗不安薬が原因になりうる5つの症状(薬剤起因性老年症候群)
  • 厚生労働省の指針が高齢者に「特に慎重に」としている睡眠薬の種類
  • 「非ベンゾジアゼピン系だから安全」という理解がなぜ誤りなのか
  • 市販の睡眠改善薬が「弱い睡眠薬」ではない理由
  • 自己判断で中断したときに起こること(離脱症状の時期と内容)
  • 減らすときの正しい順番と、医師に伝えるべき5つのこと

30秒でわかる|親に出ている症状と、疑うべきこと

親に次の変化が出ていて、しかも睡眠薬を飲んでいる場合、薬との関係を疑う余地があります。

親に出ている変化家族が考えがちなこと指針が挙げている可能性
朝から昼にかけてふらつく。つまずくようになった足腰が弱ってきた薬によるふらつき・転倒
同じ話を繰り返す。直前のことを忘れる認知症が始まった薬による記憶障害
夕方から夜にかけて話がかみ合わない認知症が進んだ薬によるせん妄
便秘がひどくなった運動不足、食事量の減少薬による便秘
トイレが間に合わない。尿が出にくい加齢による衰え薬による排尿障害・尿失禁
飲んでいる薬が全部で5種類以上ある持病が多いから仕方ない薬の数そのものが有害事象の要因

大切なのは、これらが「必ず薬のせい」という意味ではないことです。厚生労働省の指針が求めているのは、新しい症状が出たとき、まず薬が原因ではないかと疑ってみるという順番です。原因を確かめるのは医師の仕事で、家族の役割は「いつから、どんな症状が出たか」を正確に伝えることになります。

睡眠薬が原因になりうる5つの症状

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」には、「薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤」という表があります。高齢者に起きやすい症状ごとに、原因となりうる薬を並べたものです。このうち睡眠薬・抗不安薬が挙げられている行を抜き出すと、次のようになります。

症候睡眠薬・抗不安薬の書かれ方同じ症候の原因として併記されている薬(抜粋)
ふらつき・転倒睡眠薬、抗不安薬(種類の限定なし)降圧薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、メマンチン
記憶障害ベンゾジアゼピンと明記降圧薬、三環系抗うつ薬、てんかん治療薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬
せん妄睡眠薬、抗不安薬(種類の限定なし)パーキンソン病治療薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド、気管支拡張薬
便秘ベンゾジアゼピンと明記過活動膀胱治療薬、腸管鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、緩下剤
排尿障害・尿失禁ベンゾジアゼピンと明記三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬、α遮断薬、利尿薬

※厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」表1「薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤」より、睡眠薬・抗不安薬が挙げられている症候を抜粋。厚生労働省の指針は2018年5月の公表ですが、2026年9月時点で改訂版は公表されておらず、これが現行版です

注目したいのは、睡眠薬の話でよく語られる「転倒」が、5つのうちの1つでしかないことです。便秘や尿失禁が薬と結びつくとは、多くの家族が考えません。そのため対策が的外れになります。便秘には下剤を足し、失禁にはパッドを増やす。原因の薬はそのままで、対症療法の薬だけが増えていくという展開になります。

もうひとつ、右の列を縦に読むと気づくことがあります。抗ヒスタミン薬が5行すべてに登場します。鼻炎やかゆみに使われる薬ですが、この薬は市販の睡眠改善薬の主成分でもあります。処方薬を避けて市販薬に切り替えても、出る症状の方向は変わらないということで、この点は後述します。

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薬が増えること自体もリスクになる

同じ指針は、薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に発生増加に関連したというデータを紹介しています。また全国の保険薬局における調査では、75歳以上の約4分の1が7種類以上、4割が5種類以上の薬を処方されています。

ただし「多ければ悪い」という単純な話ではありません
厚生労働省の指針は、何剤からを問題とするかに厳密な定義はなく、治療に6種類以上が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあると明記しています。数だけを見て減らそうとするのではなく、中身が適切かどうかを医師と確認するという姿勢が求められます。

高齢者で特に注意されている睡眠薬の種類

ひとくちに睡眠薬といっても、作用のしかたによっていくつかの種類に分かれます。厚生労働省の指針は種類ごとに異なる注意を示しており、その差はかなり大きいものです。

ベンゾジアゼピン系|最も強く注意されている種類

指針は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬について過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄などのリスクがあり、高齢者に対しては特に慎重な投与を要するとしています。具体名としてブロチゾラム、フルニトラゼパム、ニトラゼパムなどが挙げられています。

さらに踏み込んだ記載が2つあります。ひとつは長時間作用型で、高齢者では薬の代謝が落ちて効きすぎるため「使用するべきでない」とされています。もうひとつはトリアゾラムで、健忘のリスクがあり使用はできるだけ控えるべきと書かれています。

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非ベンゾジアゼピン系|「非」がついても別物ではない

ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロンといった薬は「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれます。名前から安全なものだと受け取られがちですが、指針はこれらにも転倒・骨折のリスクが報告されており、その他ベンゾジアゼピン系と類似の有害事象の可能性があるとしています。

理由は作用する場所が同じだからです。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」は、ベンゾジアゼピン骨格を持たない「非ベンゾジアゼピン系薬剤」も、ベンゾジアゼピン受容体に作用する薬として同じ分類に含まれると説明しています。つまり「非ベンゾジアゼピン系だから安心」という理解は、成り立ちません。

メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体拮抗薬

近年使われている別系統の薬もあります。ラメルテオンに代表されるメラトニン受容体作動薬について、日本睡眠学会などがまとめた「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」はもっとも安全性が高く、高齢者や基礎疾患がある患者など副作用・有害事象のハイリスク患者でも用いやすいとしています。スボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬も、ベンゾジアゼピン受容体作動薬とは異なる仕組みの薬です。

ただし、これらにも飲み合わせの制限があります。指針は、ラメルテオンとフルボキサミンの併用は禁忌であること、スボレキサントは一部の薬と併用すると作用が著しく強まることを挙げています。安全性が高いとされる薬でも、他科でもらっている薬との組み合わせは医師と薬剤師の確認が要ります。

種類代表的な一般名指針の記載
ベンゾジアゼピン系
(長時間作用型)
フルラゼパム、ジアゼパム、ハロキサゾラム高齢者では使用するべきでない
ベンゾジアゼピン系
(そのほか)
ブロチゾラム、フルニトラゼパム、ニトラゼパム過鎮静、認知機能の悪化、転倒、骨折、せん妄のリスク。特に慎重な投与を要する
ベンゾジアゼピン系
(健忘の注意)
トリアゾラム健忘のリスクがあり、使用はできるだけ控えるべき
非ベンゾジアゼピン系ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン転倒・骨折のリスクが報告されている。ベンゾジアゼピン系と類似の有害事象の可能性
メラトニン受容体作動薬ラメルテオンフルボキサミンとの併用は禁忌
オレキシン受容体拮抗薬スボレキサント一部の薬との併用で作用が著しく増強する

※厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「催眠鎮静薬・抗不安薬」の記載にもとづく。販売名は割愛しています

飲み続ける期間にも目安がある

期間についても記載があります。指針は漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるとしたうえで、ベンゾジアゼピン系薬剤は海外のガイドラインでも投与期間を4週間以内の使用にとどめるとしていることも留意すべきと述べています。

この「4週間」という数字は、多くの家庭にとって意外なはずです。何年も同じ睡眠薬を飲み続けている高齢者は珍しくありません。だからといって直ちにやめる話にはなりませんが、「いつまで続けるか」を一度も医師と話していないなら、そこが相談の入口になります。

市販の睡眠改善薬は「弱い睡眠薬」ではない

処方薬を避けたい気持ちから、ドラッグストアの睡眠改善薬を選ぶ家庭があります。しかしこれは、効き目の弱い睡眠薬ではありません。まったく別の仕組みの薬です。

市販の睡眠改善薬の主成分は、多くが抗ヒスタミン薬です。もともとは鼻炎やかゆみに使われる薬で、その副作用である眠気を利用しています。そして厚生労働省の指針の表1では、抗ヒスタミン薬もふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、便秘、排尿障害の原因薬剤として挙げられています。

処方薬を避けて市販薬にしても、高齢者に出る症状は同じ方向です。
しかも市販薬は医師が経過を見ていないため、ふらつきや物忘れが出ても薬と結びつけられません。市販の睡眠改善薬は一時的な不眠に用いるもので、高齢の親が毎晩のように続けている場合は、その事実こそ受診時に伝えるべき情報になります。

それでも、自己判断でやめてはいけない

ここまで読んで「やはりやめさせたほうがよい」と考えた方もいるはずです。しかし急にやめることは、飲み続けること以上に危険な場合があります。

厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬について、長く服用を続けることで精神依存(その薬を服用したいと強く感じる)、耐性(同じ効果を得るために量が増える)、身体依存(減量・中止で不快な症状が出る)が形成されることがあると説明しています。

離脱症状が出る時期も具体的に示されています。

服薬を中断したあとに起きること
通常は2〜3日以内に最も強い離脱症状が起こるとされ、作用時間が長い薬では5〜6日してから出現することがあるとされています。症状は、不安、些細なことでのイライラ感、筋肉のぴくつきやけいれん、脈が速くなる、汗をかく、頭痛、吐き気など多岐にわたります。

離脱症状の頻度についても報告があります。「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」は、長期服用後に休薬すると軽度のものを含めれば離脱症状は多くの患者に認められ、複数の離脱症状を呈する患者は20〜40%としています。長期間・高用量・多剤併用が、その危険因子です。

親が帰省中の家族に「よく眠れない」と訴えたとき、手元の薬を1日抜いてみるといった対応は、この時期に重なると「薬をやめたら余計に眠れなくなった」という誤った結論を家族に植えつけます。実際には離脱症状であり、飲み続けるべき根拠にはなりません。

減らすときの正しい順番

減薬は可能です。ただし手順があります。「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」が示す考え方は次のとおりです。

STEP 1

不眠症状が改善していることを確認する
減薬・休薬の前提は、不眠症状と生活の質の両面が改善していること

STEP 2

どの薬から減らすかを医師が決める
複数飲んでいる場合、減らす順番は決まっています

STEP 3

4分の1錠ずつ減らす
1〜2週間ようすを見て、問題がなければさらに4分の1錠

STEP 4

不眠が戻ったら、減量を一時中止して相談する
不眠症が治りきっていない可能性があるため、治療の再開を検討します

「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」は、2錠以上服用している、2種類以上服用している、長期間服用している場合は、より緩やかな減量が必要だとしています。そして睡眠薬の減量は自己判断で行わず、必ず主治医に相談してから行うと明記しています。

減らす方法として有効性が示されているのは、時間をかけて減らす漸減法のほか、認知行動療法の併用、補助的な薬物療法、そして心理的サポートです。家族が「まだ飲んでいるの」と急かすことは、この心理的サポートの逆を行く行為になります。

医師に伝える5つのこと

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、冒頭で「主たる利用対象は医師、歯科医師、薬剤師とする」「患者、家族などは利用対象としておらず、気になる点があれば医療関係者に御相談願いたい」と明記しています。つまり判断は医師が行うもので、家族にできるのは判断材料を正確に渡すことです。

受診の前に、次の5点を紙に書き出してください。口頭では抜け落ちます。

1. いつから、どの薬を飲んでいるか

薬の名前は正確に。お薬手帳があれば、それをそのまま持参します。開始時期が「何年も前」としか分からない場合も、その旨を伝えます。

2. 日中に出ている症状と、始まった時期

ふらつき、物忘れ、便秘、失禁、日中の眠気。「薬を飲み始めた時期」と「症状が出た時期」を並べて書くことが要点です。前後関係が分かれば、医師は薬との関係を検討できます。

3. ほかの医療機関でもらっている薬をすべて

厚生労働省の指針は、複数の診療科・医療機関の受診によって処方薬の全体が把握されない問題を指摘しています。整形外科、皮膚科、泌尿器科の薬も含め、お薬手帳を1冊にまとめることが最も確実です。市販薬とサプリメントも申告します。

4. 実際の睡眠の記録(1〜2週間分)

何時に寝床に入り、何時に起きたか。夜中に何回起きたか。昼寝をしたか。飲酒したか。この記録があると、そもそも薬が必要な状態なのかを医師が判断できます。

5. 相談したいことを1文で

「やめたい」ではなく「減らせる状態かどうかを相談したい」と伝えます。前者は治療の否定と受け取られることがあり、後者は指針が示す方向と一致するため、話が具体的に進みます。

薬より先に試すことがある

厚生労働省の指針は、催眠鎮静薬について記した別表の冒頭で、加齢により睡眠時間は短縮し睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に睡眠衛生指導を行うと述べています。つまり薬は最初の手段ではありません。

高齢者の場合、そもそも眠れる時間が短くなっているにもかかわらず、寝床にいる時間だけが長くなっていることが「眠れない」の正体である場合があります。厚生労働省が高齢者に示している目安は寝床にいる時間が8時間以上にならないことで、世間で言われる8時間睡眠とは方向が逆です。詳しくは高齢者が眠れない原因|寝床にいる時間は8時間までが目安と受診すべきサインで扱っています。

また、朝の腰痛や首・肩のこりで夜中に目が覚めている場合は、原因が薬でも不眠症でもなく寝具にあることがあります。この点は朝起きると腰が痛い|60代からのマットレス・枕の選び方と硬さの目安にまとめました。

睡眠時無呼吸がある場合は、睡眠薬が危険になることがあります
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、治療を行っていない場合、アルコールの摂取やベンゾジアゼピン受容体作動薬に分類される睡眠薬の服用は、閉塞性睡眠時無呼吸を悪化させるとしています。大きないびきや、睡眠中に呼吸が止まる様子があるなら、その事実も必ず医師に伝えてください。

よくある失敗 3つ

1. 家族の判断で、薬を1日抜いてみる

中断から2〜3日以内に最も強い離脱症状が起こるとされています。不眠が悪化した結果を見て「やはり必要な薬だ」と結論づけてしまうと、減薬の機会を自分たちで潰すことになります。減らすなら医師の指示のもとで、4分の1錠ずつです。

2. 症状ごとに別の医療機関を受診し、薬を足していく

便秘には下剤、ふらつきにはめまいの薬、頻尿には過活動膀胱の薬。原因が同じ1剤にあった場合、薬だけが増えていきます。厚生労働省の指針が求めているのは、新しい症状が出たときにまず薬を疑うという順番です。

3. 「認知症が始まった」と決めてしまう

記憶障害もせん妄も、睡眠薬・抗不安薬が原因になりうる症状として指針に挙げられています。認知症の診断は医師が行うものですが、受診時に「睡眠薬を飲んでいます」と伝えなければ、医師は薬の可能性を検討できません。

よくある質問

Q. 何年も同じ睡眠薬を飲んでいます。すぐにやめるべきですか

自己判断でやめてはいけません。急な中止は離脱症状を招きます。厚生労働省の指針は漫然とした長期投与を避けるよう求めていますが、それは処方する側に向けた記載です。長く飲んでいるという事実そのものを主治医に伝え、減らせる状態かどうかを相談するのが正しい入口になります。

Q. 非ベンゾジアゼピン系なら安全と聞きました

安全という意味ではありません。厚生労働省の指針は、ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロンについても転倒・骨折のリスクが報告されており、その他ベンゾジアゼピン系と類似の有害事象の可能性があるとしています。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」でも、非ベンゾジアゼピン系薬剤はベンゾジアゼピン受容体作動薬に含まれると説明されています。

Q. 市販の睡眠改善薬に切り替えれば安心ですか

切り替えで解決する問題ではありません。市販の睡眠改善薬の多くは抗ヒスタミン薬で、厚生労働省の指針の表1では、抗ヒスタミン薬もふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、便秘、排尿障害の原因薬剤として挙げられています。処方薬から市販薬に移ると、医師が経過を見られなくなる分だけ不利になります。

Q. 睡眠薬を飲むと認知症になるのですか

この記事で扱ったのは、認知症そのものではなく記憶障害・せん妄という症状が薬によって起こりうるという点です。厚生労働省の指針は、これらを薬剤起因性老年症候群として挙げています。薬が原因の場合、原因薬剤の中止・減量が検討されます。認知症かどうかの診断は医師が行うもので、自己判断はできません。

Q. 親が飲んでいる薬の名前が分かりません

お薬手帳を確認してください。手帳が複数冊に分かれている場合は1冊にまとめます。手帳がない場合、調剤薬局で薬の情報を再発行してもらえることがあります。薬の実物(PTPシートや薬袋)をそのまま受診に持参する方法も確実です。

Q. 減薬をお願いしたら、医師に嫌がられませんか

厚生労働省が指針を作り、処方の見直しを求めているのは医療側です。伝え方としては「やめたい」ではなく「日中にこういう症状が出ているので、減らせる状態かどうか相談したい」と、症状を添えて具体的に伝えると話が進みます。判断材料が増えるほど、医師も検討しやすくなります。

Q. 親は睡眠薬のほかにも薬をたくさん飲んでいます。どこに相談すればよいですか

まずはかかりつけ医と、いつも利用している調剤薬局の薬剤師です。厚生労働省の指針は、処方の見直しにあたって医師が中心となり、薬剤師を含む多職種で協議することを推奨しています。かかりつけ薬剤師を決めておくと、複数の医療機関からの処方をまとめて確認してもらえます。

まとめ

  • 睡眠薬・抗不安薬は、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、便秘、排尿障害・尿失禁の原因薬剤として厚生労働省の指針に挙げられている
  • 「認知症が始まった」と家族が思う症状が、薬によるものである可能性がある
  • ベンゾジアゼピン系の長時間作用型は、高齢者では使用するべきでないとされている
  • 非ベンゾジアゼピン系も同じ受容体に作用し、転倒・骨折のリスクが報告されている
  • 市販の睡眠改善薬は抗ヒスタミン薬で、高齢者に出る症状の方向は処方薬と同じ
  • 自己判断の中断は2〜3日以内に離脱症状を招く。減らすなら医師の指示で4分の1錠ずつ
  • 受診では「いつから・何を飲み・いつからどんな症状が出たか」を紙に書いて渡す

出典

※厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、総論編が2018年5月、各論編(療養環境別)が2019年6月の公表で、2026年9月時点で改訂版は公表されていません。総論編の別表は、日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を参考に作成されています。日本老年医学会のガイドラインは2025年7月に約10年ぶりに改訂されており、「特に慎重な投与を要する薬物」のリストも見直されています。実際の処方判断は、最新の情報にもとづいて医師が行います。

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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。薬の開始・変更・中止は必ず医師の指示に従ってください。
※本記事で薬品名を挙げているのは、公的な指針に記載された内容を紹介するためであり、特定の薬の使用や中止を勧めるものではありません。
※各資料の内容は2026年9月時点で公開されているものにもとづきます。

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