高齢者の口腔ケア|歯科に通えなくなったら誰に頼む?

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高齢者の口腔ケアで家族がまずやることは、難しいケアを自己流で覚えることではなく、歯科につなぐ段取りを整えることです。本人だけでは歯磨きや入れ歯の清掃が難しくなってきた場合は、歯科衛生士に安全な方法を教わったうえで、家族が必要な部分を補助できます。

そして、通院が難しくなっても歯科に来てもらう方法があります。親が「歯医者はもう行けない」と言っている状態は、ケアをあきらめる理由にはなりません。

この記事でわかること

  • 口の衰えに気づいたあと、誰に診てもらうかの決め方
  • 避けたい3つの自己対処と、その理由
  • 通院が難しいときの歯科訪問診療と、介護保険・医療保険で頼める支援
  • 費用に関わる医療保険と介護保険の役割の違い

最初に決めるのは「誰に診てもらうか」

口の状態が気になったとき、家庭でできることを増やそうとする前に、診てもらう相手を決めるほうが先です。選択肢は大きく3つあります。

選択肢特徴こんなときに
通院を続けるかかりつけの歯科があれば経過が分かっている。家族の付き添いが要る場合がある自分で、または付き添いで通える親
歯科訪問診療歯科医師が自宅に来る。疾病や心身の状態などにより、歯科への通院が困難な人が対象通院が体力的に難しくなってきた親
まず相談する地域包括支援センターやケアマネジャーに、地域で頼める歯科を聞くどこに頼めばよいか分からない場合

なお、口の衰えにどう気づくかは、この記事では扱いません。むせる・硬いものを残す・滑舌が落ちたといったサインの見方や、噛みにくいのか飲み込みにくいのかで相談先が変わる点は、離れて暮らす親の健康チェック4項目にまとまっています。この記事は気づいたあと、どう動くかを扱います。

やってはいけない3つの自己対処

先に、避けてほしい対処を3つ挙げます。ただし、これらをしてしまう理由には無理のないものが多くあります。歯科に行くには付き添いが要る、費用が読めない、この程度で受診するのは大げさに思える。どれも自然な感覚です。

そのうえで、次の3つはあとで困る度合いが大きいため、別の方法に切り替えてください。

① 合わない入れ歯を、義歯安定剤(入れ歯安定剤)で使い続ける

義歯安定剤は、合わなくなった入れ歯を合うようにする道具ではありません。合っていない状態のまま噛み続けると、歯ぐきに当たり続ける場所ができます。痛みが出てから受診すると、調整だけでは済まなくなる場合があります。

② 自分で削る

当たって痛い場所を家庭の道具で削ると、かみ合わせ全体が変わってしまいます削った分は元に戻せません。入れ歯の調整は歯科の領域です。

③ 割れた入れ歯を接着剤で直す

市販の接着剤は、口の中で使うことを想定して作られていません。修理できたはずのものが、修理できなくなることもあります。割れたら、そのまま持って歯科へ相談してください。

3つに共通しているのは、受診を先送りするために手を加えているという点です。次の章から、その受診をどう実現するかを書きます。

入れ歯が合わなくなるのはなぜか

入れ歯は、作った当初は合っていても、時間とともに合わなくなります。歯ぐきや顎の形は変化するためで、本人の使い方が悪いから合わなくなる、というわけではありません。

ここで大事なのは、調整で済むのか、作り直しが要るのかは歯科でなければ判断できないという点です。家族が見た目で判断する必要はなく、そもそも判断できるものでもありません。

合わなくなり方にも幅があります。当たって痛いという分かりやすいものもあれば、外れやすい、噛んだときに動く、発音しにくくなったといった形で出ることもあります。痛みがないために本人が申告せず、家族も気づかないまま時間が過ぎてしまいます。

合わない入れ歯を使い続けると、噛める物が減っていきます。硬い物を避けるようになり、食べる量そのものが落ちていくこともあります。食事の変化が気になる場合は、高齢者の低栄養|親の食事が心配なときに見る5つのサインもあわせてご覧ください。

通院が難しいときの選択肢|歯科訪問診療

歯科医師が自宅に来て診療する歯科訪問診療という仕組みがあります。対象は、疾病や心身の状態などにより、歯科への通院が困難な人です。厚生労働省の令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】(PDF・約3.6MB/30頁目)でも、在宅で療養している患者に対する歯科訪問診療として位置づけられ、在宅歯科医療を担う体制(在宅療養支援歯科診療所・在宅療養支援歯科病院)の評価が設けられています。

ここで押さえておきたいのは、訪問診療は「特別なサービス」ではないということです。保険診療の枠組みの中にあります。入れ歯の作製・修理、むし歯や歯周病の治療など、自宅で対応できる治療は多くあります。ただし、必要な設備や本人の状態によっては、歯科医院や病院での処置が必要になる場合もあります。親が「わざわざ来てもらうのは申し訳ない」と感じている場合は、この点を伝えると気持ちが動くこともあります。

実際に何をしてもらえるのかも、気になるところです。中央社会保険医療協議会の資料(在宅(その4)・PDF約3.5MB/8頁目)では、歯科訪問診療で行う個別の診療内容としてう蝕(むし歯)の治療、有床義歯の作製や修理、歯科疾患の指導管理などが挙げられています。ただし、扱える範囲は歯科によって差があるため、依頼するときに「何ができるか」を先に聞いておくと、あとで別の歯科を探し直さずに済みます。

探し方は、次のどれかで足ります。家族が一から探し当てる必要はなく、いつもの相談先に聞けば足ります。

頼み先の探し方

① かかりつけの歯科に聞く/通っていた歯科が訪問に対応している場合があります。経過を知っている歯科に来てもらえるのが一番確実です。

② ケアマネジャーに聞く/すでに介護保険のサービスを使っている場合は、地域で訪問している歯科を把握しています。

③ 地域包括支援センターに聞く/介護保険をまだ使っていない場合の窓口です。家族からの相談でも構いません。

親が入院中や施設入所中の場合は、先にその施設に確認してください。施設によって、外部の歯科が入る手順が決まっていることがあります。

介護保険で頼める「居宅療養管理指導」

もうひとつ、介護保険の側にも仕組みがあります。名前は居宅療養管理指導といいます。硬い言葉ですが、中身は歯科医師や歯科衛生士が自宅に来て、療養上の管理や指導をしてくれる介護保険のサービスです。

厚生労働省の資料では、医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士等が通院が困難な利用者(管理栄養士と歯科衛生士等については通院または通所が困難な利用者)の居宅を訪問し、心身の状況や環境を把握したうえで療養上の管理と指導を行うもの、と説明されています。

誰が来るか何をするか回数の上限
歯科医師計画的・継続的な歯科医学的管理に基づく指導や助言。訪問診療または往診を行った日に限られる月2回まで
歯科衛生士等口腔内や入れ歯の清掃、摂食・嚥下機能に関する実地指導。1対1で20分以上月4回まで

※ 回数は厚生労働省「介護給付費単位数の算定構造」(PDF・約1.0MB。居宅療養管理指導は5頁目、介護予防居宅療養管理指導は25頁目)、内容は社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)資料5「居宅療養管理指導」(PDF・約9.8MB/4頁目)によります。2026年9月時点で確認したもので、令和8年度介護報酬改定(令和8年6月施行)でもこの回数は変更されていません。

ここで押さえておきたいのが順番です。歯科衛生士等の実地指導は、訪問歯科診療を行った歯科医師の指示と、その歯科医師が作った管理指導計画に基づいて行われます。つまり先に歯科医師に診てもらうことが前提です。

ただし、歯科衛生士が単独で訪問することはあります。歯科医師が毎回同行するわけではありません。家族が歯科衛生士だけを自由に依頼できる仕組みではない、という意味での前提だと考えてください。

この実地指導では、口の清掃や入れ歯の清掃のほか、誤嚥性肺炎の予防に関する指導食事の姿勢・食べ方についても扱われていることが、同じ厚生労働省の資料で報告されています。家族が独学で覚えるより、来てもらったときに実際の場面で教われるほうが確実です。

頼み方の順序も押さえておくと迷いません。歯科医師の訪問診療が始まったあとで、歯科衛生士等の実地指導を受けたいと歯科やケアマネジャーに伝えると、話が進みます。必要性や頻度を判断するのは歯科医師と歯科衛生士で、必要に応じてケアマネジャーとも情報共有しながら調整していく形です。家族が事業所を探して直接契約するものではなく、いま関わっている専門職を通して進みます。

費用の面でも知っておくとよい点があります。厚生労働省の資料では、居宅療養管理指導は区分支給限度基準額(月々に使えるサービスの上限)が適用されないサービスとして挙げられています(区分支給限度基準額(参考資料)・PDF約1.3MB/6頁目)。他の介護サービスの利用枠を圧迫しないという点は、使うかどうかを決めるうえで大きな違いになります。

なお、これは介護保険のサービスなので、要介護・要支援の認定を受けていることが前提になります。要介護1〜5の場合は「居宅療養管理指導」、要支援1・2の場合は「介護予防居宅療養管理指導」として利用できる場合があります。要支援だから対象外、ということではありません。介護予防のほうにも、歯科医師は月2回まで、歯科衛生士等は月4回までという同じ枠が設けられています。

認定をまだ受けていない場合は、要介護認定の訪問調査で聞かれること|家族が渡すメモの書き方から先に進めるとよいでしょう。

回数の上限は決まっていますが、上限まで使い切る必要はありません。口の状態が落ち着いていれば回数を減らすこともありますし、入れ歯を作り直した直後のように調整が続く時期は、間隔を詰めることもあります。どのくらいの頻度にするかは、歯科医師とケアマネジャーが状態を見ながら決めていきます。

費用は何で決まるか|医療保険と介護保険、どちらが関係するか

金額を先に知りたくなりますが、関わる保険が1つとは限りません。相場を探すより、次の点を確認するほうが早く答えにたどり着けます。

確認する順番

① どちらの保険が関わるか/歯科訪問診療で行う診察・治療は医療保険が中心です。一方、要介護・要支援の方に対して歯科医師や歯科衛生士が行う療養上の管理・指導には、介護保険の居宅療養管理指導/介護予防居宅療養管理指導が使われる場合があります。実際の内訳は認定の状況や内容によって変わりますので、依頼する歯科へ確認してください。

② 本人の自己負担の割合/医療保険も介護保険も、所得などによって自己負担の割合が変わります。親の負担割合を先に確認してください。

③ 何回来てもらうか/上限の範囲で、実際に何回来てもらうかによって変わります。回数は歯科医師と歯科衛生士が状態を見て判断します。

具体的な金額は、診てもらう歯科と、親が加入している保険によって変わります。確実なのは、依頼する歯科に直接聞くことです。介護保険が関わる部分は、ケアマネジャーにも相談できます。訪問にかかる交通費の扱いも、あわせて聞いておくと後から驚きません。

なお、歯科衛生士が訪問して行う指導は、介護保険だけのものではありません。中央社会保険医療協議会の資料(在宅(その4)・44頁目)によれば、医療保険にも訪問歯科衛生指導料があり、歯科訪問診療を行った歯科医師の指示に基づいて、歯科衛生士等が患者やその家族に対して口の中の清掃、入れ歯の清掃指導、口腔機能の回復や維持に関する実地指導を20分以上行った場合に、月4回まで算定するとされています。どちらの枠組みで行われるかは、認定の状況や内容によって変わります。

家族が日々できること

家族が口腔ケアを補助すること自体は、特別なことではありません。大切なのは、自己流で始めないことです。本人だけでは難しい部分は、歯科医師や歯科衛生士に安全な方法を教わったうえで補助してください。前の章のとおり、実地指導は家族に対しても行われるものとされています。

そのうえで、家族の側で整えておけることがあります。続けやすい環境をつくることと、専門職に渡す情報を持っておくことです。

環境と段取りでできる4つ

① 時間帯を決める/疲れている時間帯は続きません。親の体調がよい時間に固定すると、習慣になりやすくなります。

② 姿勢を整える/寝たままではなく、上体を起こせる姿勢がとれるかを見ておきます。整え方は、来てもらったときに歯科衛生士に教わってください。

③ 道具の置き場所を決める洗面所の奥にしまうと使われなくなります。親が自分で手を伸ばせる場所に出しておきます。

④ 使っている物を書き出しておく/歯ブラシや洗浄剤の種類、いつから使っているかを家族が把握しておくと、訪問時に説明が要りません。

この4つはどれも、教わる前から準備できることです。やり方は専門職に教わり、環境は家族が整える——この分担を決めておくと、続けやすくなります。

道具そのものの選び方は、来てもらった歯科衛生士に選んでもらうのが確実です。口の状態によって適した物が変わるためです。どこで買うか、介護保険で借りられる物と自費で買う物の切り分けは介護用品の準備リスト|介護保険で借りられる13品目と買う物に整理しています。

入浴や排泄の介助も重なってきた場合は、在宅介護の入浴・排泄がつらい|家族が抱えずに使えるサービスで、家族が抱え込まずに使えるサービスをまとめています。

離れて暮らしていて毎日は見られない場合でも、使っている道具の写真を撮っておくだけで、訪問時の説明が具体的になります。帰省したときに洗面所を一度見ておくと、次に電話で話すときの手がかりにもなります。

本人が「大丈夫」と言って受診を嫌がるとき

親が受診をためらう理由は、面倒だからとは限りません。費用が読めない、家に人が来るのが気詰まり、大げさにしたくない——このあたりが背景にあることは少なくありません。

伝え方を変えるだけで話が進むこともあります。「治療を受けよう」ではなく「今の状態を一度見てもらおう」と、目的を小さくして伝えてみてください。訪問診療は家から出る必要がないことも、あわせて伝わるようにします。

それでも動かないときに、家族が押し切る必要はないと考えてください。ケアマネジャーや地域包括支援センターには、家族が困っていることとして相談できます。第三者から話が出たほうが、本人も受け入れやすくなります。

ただし、痛みが続いている・食べる量が明らかに落ちた・顔が腫れているといった変化があるときは、本人の同意を待たずに相談を急いでください。こうした状態は、様子を見て解決する種類のものではないためです。

よくある質問

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Q. 入れ歯が合わないようです。まず何をすればよいですか?

安定剤で使い続けず、歯科に相談してください。調整で済むのか作り直しが要るのかは、歯科でなければ判断できません。通院が難しい場合は、かかりつけの歯科に訪問してもらえるかを聞くところから始めてください。

Q. 歯科衛生士だけで訪問してもらうことはありますか?

あります。ただし、家族が歯科衛生士だけを自由に依頼する仕組みではありません。訪問歯科診療を行った歯科医師の指示と管理指導計画に基づいて、歯科衛生士が単独で訪問し、口の中の清掃や入れ歯の清掃指導、摂食・嚥下に関する指導を行う場合があります。

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Q. 介護保険で何回来てもらえますか?

居宅療養管理指導は、歯科医師が月2回まで、歯科衛生士等が月4回までとされています。要支援1・2の方の介護予防居宅療養管理指導も同じ回数です。実際に何回にするかは、歯科医師と歯科衛生士が状態を見て判断し、必要に応じてケアマネジャーとも共有しながら調整します。

Q. 家族が口の中を掃除してあげたほうがよいですか?

本人だけでは難しくなってきた部分を家族が補助すること自体は、特別なことではありません。ただし自己流で始めず、来てもらった歯科医師や歯科衛生士に安全な方法を教わってください。実地指導は家族に対しても行われるものとされています。あわせて、時間帯を決める、姿勢を整える、道具を使いやすい場所に置くといった環境づくりも効きます。

Q. 要介護認定を受けていなくても訪問してもらえますか?

要介護認定がなくても、歯科訪問診療そのものは医療保険で受けられる場合があります。また、要支援1・2の方には「介護予防居宅療養管理指導」があり、歯科医師は月2回まで、歯科衛生士等は月4回までという枠が設けられています。どちらに当てはまるかは、依頼先の歯科か地域包括支援センターに確認してください。

Q. 施設に入っている親でも頼めますか?

先に入所先へ確認してください。施設によって、外部の歯科が入るときの手順が決まっていることがあります。

まとめ

  • 家族がまずやるのは自己流で覚えることではなく、歯科につなぐ段取り
  • 避けたい自己対処は安定剤で使い続ける・自分で削る・接着剤で直すの3つ
  • 入れ歯が合わなくなるのは自然に起こる。調整か作り直しかは歯科の判断
  • 通院が難しくても歯科訪問診療がある。探し方はかかりつけ歯科・ケアマネジャー・地域包括支援センター
  • 介護保険には居宅療養管理指導があり、歯科医師は月2回まで、歯科衛生士等は月4回まで。要支援1・2には介護予防居宅療養管理指導がある
  • 歯科衛生士等の実地指導は歯科医師の指示と管理指導計画が前提。ただし歯科衛生士が単独で訪問することはある
  • 診察・治療は医療保険が中心、療養上の管理・指導には介護保険が使われる場合がある
  • 家族の補助は専門職に方法を教わったうえで行う。環境は時間帯・姿勢・道具の置き場所で整える

合わない入れ歯やむし歯・歯周病などは、放置せず歯科へ相談することが大切です。通院が難しくても、来てもらう形で手は打てます。まずは、かかりつけの歯科かケアマネジャーに一本連絡するところからで十分です。

※ この記事は一般的な情報をまとめたものです。口や入れ歯の状態については、自己判断せず歯科医師・歯科衛生士にご相談ください。介護保険で使えるサービスや自己負担は要介護度や所得によって異なり、地域差もあります。制度の内容は、厚生労働省の現行の算定構造および令和8年度介護報酬改定(令和8年6月施行)・令和8年度診療報酬改定の資料、ならびに中央社会保険医療協議会の資料を、2026年9月時点で確認したものです。

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